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CASA K'OJOM   マヤ音楽博物館 カサ・コホム

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   (Banda de Música Bonampak)

これは ボナンパック遺跡の極彩色壁画に描かれた 「ボナンパック音楽隊」。 どんな
音楽が奏でられていたのでしょうか。  形のある絵は残りますが、音は残りません。  譜面や録音が残されている訳もなく、消えた 音は蘇りません。

グアテマラの旧首都アンティグァにマヤの音楽博物館があるので寄ってみました。 何かマヤの音楽について知る手掛かりは…?

 (訪問日 2010年11月22日) 画像

楽器博物館訪問  Visita de Museo Música Maya
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 (Recepción de La Azotea y Museo de Café)

アンティグァ市北西のホコテナンゴ村にコーヒー精製所跡に作られたラ・アソテア文化センターがあり、コーヒー博物館に加えて マヤ音楽博物館 Casa K'ojom が設けられています。 入り口で入場料を支払い、中へ。 写真右は旧コーヒー精製所の入り口です。

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 (Entrada al Museo Casa K'ojom)

音楽博物館は左の方。 写真左がその入り口です。

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 (El interior del museo con dibujo de Bonampak)

中に入ると民族衣装に身を包んだ若い女性が迎えてくれ、親切に説明してくれます。 楽器の実演もしてくれますが、勿論どんな 音がでるかだけ。 そして背景に飾られるのはボナンパックの音楽隊。 ボナンパックはメキシコのチアパス州ですが、グアテマラでも マヤの音楽と言うとやはりボナンパックが一番の手掛かりになるようです。

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 (Demostración de instrumentos Maya, Sonaja, Tambor, Ayotl y Trompeta)

ボナンパックで使われている4種類の楽器の音出しをして貰います。

まずチンチンもしくはソナハと呼ばれるマラカス(写真左上)。 ボナンパックのものは大型なので、現代のマラカスより低く大きな音がしたかも しれません。 5人並んで鳴らしているので、かなり大きな音だったでしょうか。

次に太鼓、タンボール(写真右上)。 木か焼き物で作られた胴に皮が張られたもので、実演してくれた太鼓は焼き物の胴でしたが、結構低く 大きな音がしました。 ボナンパックのものは、木製のように見え、アステカでも使われるウエウエトゥルという種類のようです。

亀の甲羅を利用したアヨトゥルと呼ばれる打楽器(写真左下)は鹿の角で叩きます。 叩く甲羅の位置で音程が変わるので、トンカントンカン 交互に音程の異なる比較的甲高い音を出せます。 甲羅が大きく乾いているせいか、想像するより大きく鋭い音がしました。

最後にトロンペタ、つまりトランペット、これも吹いてくれました。 木製と焼き物製とあるようです。 指で押さえる穴がないので基本的に 単音ですが、強く吹き込むと、プーーッ ウッと吹き上がります。 ボナンパックのものは更に大型で筒も太いのでかなりの迫力だったでしょう。

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 (Imagen ampliada de Pintura Bonampak)

ボナンパック音楽隊を少し大きくしてみましょう。 画像は上から下へ、5人のマラカスから始まって、縦置きの太鼓を挟んで、 亀の甲羅を持った3人が続きます。 その後ろに奇妙な扮装をした踊り手の一団がいて、2人のトランペット吹きとなります。

どんな音が響いていたのか? 最初にマラカスと太鼓が序奏を奏で、亀の甲羅が激しく鳴って盛り上がり、トランペットが吹き鳴らされる。  何て言うのは勝手な妄想です。

ちょっと意地悪ですが 説明してくれた女性に、「どんな音楽だったのか」 と問い詰めてみました。 答えはやはり「わかりません」 と。  そうですよね、いくら絵を見ても音楽は聞こえてきませんから。

でもメロディアスな音楽ではなかったと思います。 何故ならトランペット以外は全て打楽器で、トランペットにしても基本的に単音の トランペットですから、旋律を奏でるというより リズムの補完的な役割でしょう。 扮装して踊る一団が居ましたが、もしかすると メロディーは彼らが唄っていた? 想像は勝手ですが、答えはありません。

ボナンパック遺跡 についてはこちら。


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 (Ocarina y flauta)

他の楽器です。 左はオカリナ、これはメロディーを奏でられます。 カサ・コホムにはありませんでしたが、縦笛の類も古典期の発掘品として よく博物館に展示されています。 これらは多分 独奏楽器だったでしょうか、

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 (Tun y flauta de caracol)

左はトゥンと呼ばれる、木を刳り抜いた打楽器で、Hの字型の切り込みがあります。 テポナストゥリと呼ばれる綺麗に彫刻されたものもあります。  右は世界中どこでも使われる法螺貝、マヤでも一般的。 この辺りまでがスペイン人の影響を受ける前にマヤで使われていた楽器でしょう。

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 (Chirimía, Marimba, Guitarra, Violín y Harpa, Instrumentos de la época colonial)

左上はチリミアと言うアラブ風の笛、右上はいろいろな種類のマリンバ。 写真下はバイオリン、ギターそしてハープ、いずれもコロニアル時代 に西洋の影響を受けて作られた楽器で、現代のマヤの民族音楽に使われます。

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   (Presentacion en Video y CD en la venta)

楽器博物館訪問の最後はミニシアターで、ここで現代に伝わるマヤの祭礼、民族舞踊と音楽がビデオで紹介されます。 ある部分は、コロニアル 時代以前のマヤの伝統、風習が混じっているのかもしれませんが、音楽に関して言えば 西洋の平均律が紹介されてしまったコロニアル時代 にマヤの音楽は大きく変質してしまったものと思います。 関心があるのはスペイン人到来以前の純粋なマヤの文化、特に王朝文化華やかだった 古典期の音楽なのですが…。

博物館の売店に現代マヤ音楽のCDがあり視聴できました。 マリンバの一番少ない素朴なものを選んで買いましたが、素朴と言っても太鼓の リズムの上に鄙びた笛のメロディー、精一杯複雑にして2本の笛…。 ボナンパック音楽隊の録音があれば買いたいのですが、ある訳ないですね。


博物館に展示された楽器 Instrumentos exhibidos en los museos
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(Exhibición de Instrumentos Maya en Museo Nacional de Antropología y Etnología de Guatemala)

音を出さないともはや楽器ではありませんが、形を見るだけでもどんな音楽だったか多少の手掛かりになるかもしれません。 博物館に展示 されている楽器を集めてみました。

写真はグアテマラの考古学民俗学博物館の楽器コーナー。 左右は先古典期後期カミナルフユ出土の彫刻が施された法螺貝です。

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 (Silbatos y Sonaja)

呼子は左側が先古典期中期ティカル出土、右側が先古典期後期ウワシャクトゥン出土。 写真右は焼き物のソナハ(マラカス)で、 古典期後期バハ・ベラパス州のもの。

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 (Flautas de período preclásica)

左はキチェ州出土の原古典期の笛、右はカミナルフユ出土の古典期前期の笛、いづれも指で押さえる穴があり、メロディーを奏でる事が できたようです。

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 (Tambores de cerámica)

床置き型の陶製のタンボール(太鼓)。 左から古典期後期キチェ州、古典期中部低地、古典期南部海岸地域のものです。 いずれも グアテマラのものですが、右のものはポポル・ブフ博物館から。

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 (Exhibición de Instrumentos en Sala Maya, Museo Nacional de Antropología de México)

メキシコ・シティーの人類学博物館にもマヤ室の古典期後期コーナーの中に楽器の展示があります。 特に出所は明らかにされて いませんが、古典期後期のもののようです。

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 (Diferentes tipos de Flauta Maya)

いろいろな種類の笛があり、筒が3本まとめられたものは複音が出せたでしょうか。 

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 (Flautas o Silbatos)

水鳥の彫刻がついた笛は単音でしょうか? 口で咥えた呼子のようなタイプもあります。

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 (Tambores, flauta y caracol de cerámica)

いろいろな大きさのタンボール(太鼓)もあります。 すべて陶製ですが、木製のものは朽ちて残らないのでしょう。  焼き物で作られた法螺貝もありました。 ここまで人類学博物館マヤ室の展示です。

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 (Exhibición de Instrumentos en Museo Regional de Palacio Cantón, Merida)

これはメリダ市の地方人類学博物館 カントン宮殿での展示、楽器が集められています。 腐らずに残った木製の打楽器、トゥンが 目を引きます。 右上の動物の骨は横に幾筋も切り込みをつけたギロ、右手前は植物の実で作った鈴を束ねたもので、足首などにつけて 鳴らしたようです。

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 (Exhibición de Instrumentos en Museo de Antropología de Xalapa, Veracruz)

ベラクルス州ハラパ市の考古学博物館にも楽器の展示があります。 ベラクルス州はトトナカ族やウアステコ族の文明が栄え、マヤと 中央高原を結ぶ交易路になっていました。

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 (Trompetistas en pintura y figurilla)

ベラクルス州は同じメゾアメリカの文明で楽器も似通ったものとなり、特にトランペットはボナンパックと同じものがあったようです。 左は ラス・イゲラス の壁画に描かれたトランペット吹き、、右は土偶です。

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 (Exhibición de Instrumentos de Azteca, Sala Mexica de Museo Nacional de Antropología)

時代が少し新しくなりますが、アステカの楽器、メキシコ・シティーの人類学博物館メシーカ室から。 基本的にはマヤの楽器とあまり 変わりません。

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 (Teponaxtle y Flautas)

左は陶製のテポナストゥリ、右はいろいろな種類の笛です。

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 (Teponaxtle y Huehuetl)

中央が木製のテポナストゥリ、右は木製のウェウェトゥル、いずれも見事な彫刻が施されています。


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 (Atracción de danza y música de Azteca a los turistas)

最後に観光客用のアトラクションですが、これが現代に伝わるアステカ舞踊と音楽。 メキシコ・シティー、ソナ・ロサにある フォコローレ での写真。 テポナストゥリとウェウェトゥルが登場します。



マヤの音楽、どんなリズムだったのか、リズムどころかテンポすらわかりません。 ましてやメロディーやハーモニーなんて知る由もありません。  考古学雑誌 Arqueologia の 2008年11-12月号でスペイン人到来前の音楽を特集していましたが、ボナンパックの壁画や楽器の紹介が中心で、 音楽の中身についての言及は全くなく、この分野の研究は進んでいないとの事でした。 消えた音は蘇らない、ですね。


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