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SALA MAYA I   人類学博物館 マヤ室 I
メキシコが世界に誇る国立人類学博物館、テオティウアカンやメシーカ のみならず古代文明の遺物がメキシコ全土から集められ、 マヤの展示も充実しています。

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    (Parte frontal del Museo Nacional de Antropología, D.F.)


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    (Tlaloc de Coatlinchan colocado en la Avenida Reforma)


レフォルマ通り沿いにテオティウアカン時代のトラロック(水の神)が置かれ 博物館の目印になっています。  このチャプルテペックの地へ 1964年に博物館が移設されたのに伴い、テスココ近郊のコアトリンチャンから運び出された 167 トンの巨大石像です。

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   (Entrada a la Sala Maya y Fuente en la forma de Árbol de Vida)


マヤ室は博物館に入って中庭の左手、生命樹の噴水を右に見ながら進んでいきます。 2003年7月にリニューアルされ、700点以上の 収蔵品がテーマ・時代を追って、整然と
陳列されています。 以下、マヤの歴史解説を交え、展示順路に沿ってご案内します。

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マヤ文明の紹介  Introducción a Cultura Maya

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 (Sección introductoria de Cultura Maya)

マヤ室に入るとゆったりした空間の中、マヤの概略説明と年表のパネルがあり、立体地図でマヤ遺跡の分布が示され、周りに代表的な 収蔵物が配置されています。  マヤ文明全般を紹介するコーナーです。

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 (Panel de Introducción,  Portaincensario de Palenque)    (Dintel 26 de Yaxchilán)

概略説明は 「古代マヤ文明は2000年の永きに亘り40万平方キロに及ぶ地域で栄え、その芸術、科学的創造性は メゾアメリカで最も 注目に値するものであり、高地山岳地帯、熱帯雨林のジャングル、沿岸地域と異なる自然環境の中で多面的な文化を育み、メキシコ南東部、 グアテマラ、ホンジュラス、ベリーズ、エル・サルバドールのマヤの村々では今日に至るまでその独自の言語、信仰、習慣が守り続けられて いる ……」 と言うような解説で始まり、発掘、調査、研究の成果により マヤの実像解明が進んでいる事が書かれています。  長くなるので中略しました。

写真左が概略説明パネルです。 中央はパレンケ出土の彩色の残る香炉立て、右はヤシチランの石板 26号で、いずれも代表的な古典期 後期の遺物として入口付近に置かれています。

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 (Figurillas de Jaina y Cabeza estucada de Comalcalco)

代表的遺物と共に、マヤ人の素顔に迫る漆喰彫刻の人面像と土偶が置かれており、興味深く 気の利いた配慮です。 右は タバスコ州コマルカルコの人面像、中央の小さな土偶はカンペチェ州ハイナ島出土のもの。

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 (Cabeza con deformacion craneana de Palenque y Escultura en piedra de Toniná)

左のパレンケ出土の人面像には前頭変形が認められます。 トニナ出土の球戯をモチーフにした素晴らしい石彫りは、マヤ概略説明パネル の横に置かれたマヤ室最初の展示物になります。

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 (Panel de Cronología de los Mayas)

マヤの年表。 画像をクリックすると拡大画像で時代区分は充分読み取れます。 マヤの時代区分は資料によって異なりますが、 「マヤ遺跡探訪」の時代区分 はこの年表を基にしています。

古典期前期は日本の古墳時代、古典期後期が飛鳥・奈良時代、古典期終末期は平安時代、後古典期前期は平安時代から鎌倉時代 にかけて、そして後古典期後期が鎌倉・足利時代に相当します。 1517年を以って後古典期終了と言う事になっていますが、 この年にスペイン人の艦隊がユカタン半島へ到来し、マヤ文明が滅亡の道を辿ります、戦国時代初めの事です。 この辺を頭に 入れて先に進みましょう。

先古典期  Período Preclásico  (2000BC - 250AD)
マヤ地域への人々の定住は先古典期前期 (2000-1000BC) に遡りますが、マヤ文明の勃興は先古典期中期 (1000-350BC) と言われます。  農業を中心としたマヤ最古の都市 クエヨ (ベリーズ)がこの時代 に当たります。  メキシコでは オルメカ など後のメキシコのマヤに影響を与える文明が栄え、 その影響を受けたチアパス州の イサパ が興隆し、先古典期後期・ 原古典期 (350BC-250AD)  になるとグアテマラで大都市 エル・ミラドール が起こり活発に大規模建造物が築かれるようになります。

メキシコの人類学博物館なのでベリーズやグアテマラのものはありませんが、先古典期後期、原古典期の土器や陶器、イサパの石碑 等が展示されています。
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 (Sección de Período Preclásico)
先古典期のコーナー。 土器、陶器、石碑の展示が有ります。


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 (Las ceramicas de Período Preclásico)          (Vasija en forma de cabeza humana, Izapa)
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 (Vaso con rostro de deidad, Izapa) (Plato con diseño de ave, Chiapas) (Plato con un pez, Tabasco)

人面の器と 神が陰刻された壷はイサパのもので、鳥の図柄で縁取りされた皿や、魚が描かれた多彩色の皿など装飾性の高いものも 見られます。

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 (Estela 21 y 50 de Izapa)

イサパの21号石碑(左)。 右側に立った人物は右手で血が滴り落ちる生贄の首を持ち、下に首を刎ねられた生贄が横たわります。  左側に屋根にジャガーがついた輿を2人で運ぶ様子が見えますが、 生贄の魂が載せられて死界へ運ばれるところと言われます。  画像をクリックすると拡大画像で確認出来ます。

右の 50号石碑は ジャガーの面を被った全身骨の死界の神(右側)で、あばら骨の下から臍の緒が伸びてとぐろを巻いて上に向かい、 その先に小さめの人物が繋がっているそうですが、小さめの人物はどこが顔なのか???

マヤに繋がるモチーフですが、まだこの時代は文字が刻まれていません。

マヤの動物たち  Los Animales en el Mundo Maya
先古典期のコーナーに続いて マヤの動物達を紹介するコーナーがあります。 マヤの人々にとって動物は食用であると同時に、自然界と人間を繋ぐ聖なるものとして重要で、造形物やマヤ文字の中などに 頻繁に登場します。
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 (Sección de "Los Animales en el Mundo Maya")

動物コーナーの展示。 アルマジロ、イグアナ、蛇、蛙、亀、鹿、七面鳥、ミミズク、そしてジャガー。 様々な動物が 皿、壷、呼子等 に表現されています。

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 (Silbatos en la forma de iguana, búho y admadillo)

青い彩色が残るイグアナの呼子(笛)にミミズクやアルマジロの呼子。 ミミズクは夜間飛行する姿から死界の死者と崇められた ようです。 古典期後期。

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 (Recipiente de Jaguar y Platos con diseño de peces y venados)

ジャガーの頭を模った土製の容器、ジャガーは戦争や王の権力の象徴でした。 魚を描いた彩色皿と、鹿に扮して吹き矢で鹿を狩る様子 を描いた彩色皿。 古典期後期。

マヤの工芸・技術  La Tecnología de los Mayas
動物コーナーの隣が、技術のコーナー。 石、土、骨、貝の世界です。 金属器は用いられず、言ってみれば石器時代ですが、文字を操り天文、数学に優れ、階級社会を形成して巨大建造物や精巧な 美術工芸品を生み出したのは驚きです。
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 (Sección de "La Tecnología de los Mayas")

建造物に多用された石灰岩はマヤ地域に豊富に存在しましたが、工具や武器になる黒曜石等の火山岩は産地が限られ、多くは 交易に頼りました。 シュカンブ遺跡で発掘された交易品の中には銅製品もありますが、実用品としては普及しませんでした。 石の方が安価で 実用的だった?

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 (Sección de "Los Animales en el Mundo Maya")

左は土製の型と、土器の模様付けに使われた円筒と平板の押し型。 右は火山岩製の鏃と針等の骨製品です。


古典期 前期  Clásico Temprano (250-600AD)
古典期は前期 (250-600AD)、後期 (600-800AD) と終末期 (800-1000AD) に 分類され、前期は華やかなマヤ王朝文化が形成された時期にあたります。 この時期にマヤ神聖文字による歴史の記述が始まり、 長期暦による暦法が確立され、王は文字と暦で王朝の正当性を石碑等に刻む事になります。
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 (Jerarquía Maya)                        (Monumento 26, Gobernante 2 de Toniná)

古典期前期に勃興してきたのは、グアテマラのティカル、ホンジュラスのコパン、ベリーズのカラコル、カンペチェ州南部のカラクムルや チアパス州のパレンケ、トニナ等の大センターで、先古典期のセンターは没落していきます。 強大な王権を元にした大センターは周辺の 中小のセンターを切り従えますが、インカやアステカのような統一国家は出来ず群雄割拠の世界でした。

Halac Uinic と呼ばれる王であり最高権力者を頂点にして、貴族、聖職者、軍人、商人から一般の農耕狩猟に従事する人達まで、 ピラミッド型の階級社会が形成されました。 左はハイナ出土の小像で構成されたマヤの階級社会、右はトニナ王 支配者2 の立像、 ともに博物館の展示です。

(支配者2の立像は 672年と古典期後期でした。 古典期前期の 別のトニナ王の立像 はトニナの博物館にあります。)

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 (Figurillas de noblezas de Maya, Isla de Jaina)

カンペチェ州北部海岸のハイナ島は 1000を超える埋葬が発掘されているマヤの祭祀センター(ネクロポリス=共同墓地)でしたが、 副葬品の芸術製の高い小像からはマヤの貴族を始めとする生き生きしたマヤ人の実像を垣間見る事が出来ます。 手ずくねで作られた 質の高い小像は古典期前期まで遡るようですが、その後 型を用いて大量生産されるようになり、ここには古典期前期から後期の 逸品が集められているようです。

ピラミッド型マヤ階級社会とハイナ島の小像の展示は古典期前期の陶器のコーナーの横にあります。


古典期 前期の陶器  La Cerámica del Clásico Temprano
古典期 前期 (250-600AD) は日本では古墳時代にあたる古い時代で、 博物館の展示物の数はかなり限られ、その多くは出所不明となっています。

(説明パネルが Cerámica となっているので陶器としましたが、焼成温度など厳密な意味で陶器なのかは判りません。 土器と する方が適当かもしれませんが。)
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 (Sección de "La Cerámica del Clásico Temprano")

古典期前期の陶器(土器?)は、色、形、製法が多様性に富み、蓋がついたり非常に凝った作りが特徴で、テオティウアカンの影響を受けた 円筒形の三足土器(?) もあります。

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 (Las Cerámicas del Clásico Temprano)

左から人面が描かれた三足陶器、想像上の動物が描かれた壷、共に出所不明です。 右端は シバンチェ遺跡 で1994年に発見された 地下墳墓の副葬品、出所が確かな数少ない古典期前期の陶器です。 シバンチェの墳墓からの副葬品は パレンケのパカル王の墳墓の展示と 共にマヤ室の地下フロアーに展示されています (マヤ室 III 参照)。

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 (Las Cerámicas del Clásico Temprano)

左から鳥の頭の取っ手が付いた容器、王の顔の取っ手のある骨壷、共にカンペチェ州カラクムルからの由緒正しい古典期 前期の陶器です。

右はカンペチェ州エツナ遺跡からの彩色骨壷、古典期前期の収蔵品は少ないので、実際の展示はこのコーナーではありませんが、 ここで紹介する事にしました。 他に目ぼしい古典期前期の収蔵品は、下の壁面漆喰彫刻と古典期前期の項で紹介したトニナ王の 立像くらいです。


古典期 前期の建築  Arquitectura del Clásico Temprano
建造物は実際に現地に足を運んで確認しなければなりませんが、古典期前期の建物を飾った大きな漆喰彫刻がひとつ博物館に展示 されています。  盗掘者が剥ぎ取っってしまった為、修復されて博物館入りしたようです。
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 (Friso estucado de Placeres, Campeche)

復元図と比べると5分の3位ですが、 8m 40cm もある大きなもので、後古典期のコーナー近くに展示されています。 カンペチェ州プラセーレス が出所で、調べて見るとカラクムルの東方 50Km 位になるようです。 詳しい遺跡地図にも記載がなく、現在は密林に埋もれているようです。

若い王が両脇に神の形をした先祖を従えている様子との事ですが、遺跡地図に載らないような所にこんな凄いものがあった訳で、 まだまだ埋もれている遺跡が沢山あるのでしょうか。 

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 (Friso estucado de Becan, Campeche)        (Friso estucado de Kohunlich, Quintana Roo)

古典期前期の建物にはこうした漆喰彫刻が施され、 キンタナ ロー州のコフンリッチ、 カンペチェ州のベカンバラムク、 等を訪問すると、類似の漆喰彫刻が見られますが、現地保存はなかなか難しそうです。 (写真は共に現地のもの。)


大分長くなったのでページを改めます。
2部は 華やかなマヤ王朝史の古典期後期です。   画像     画像